現在の日本の五つの異次元な国情
その④ 異次元の民主主義

2017.01.23

続く与党高、野党低

衆参ともに与党が大きく過半数を確保し、改憲に前向きとされる勢力が三分の二を超す国会の現況も異次元に突入している感があります。
現安倍内閣は支持率50%~60%台を推移、不支持が支持を上回る「赤字」状態は49ヶ月間で一度しかありません。ちなみに人気が高かった小泉内閣は同時期までに3回の「赤字」がありました。自民党総裁任期も3期就任が可能となりさらに長期政権となることが見込まれ、自民党支持率も40%周辺を推移し高止まり(NHK世論調査)で、政権の安定度は極めて高いと言うべきです。
いっぽう野党第一党の民進党支持率は10%前後を推移。蓮舫代表を選出してからは代表選直後の9.9%を頂点に続落し直近1月は8.7%まで落ちています。民進党に変わる直前、民主党最後の支持率は8.9%。今の民進党はこれよりも悪い状況です。2012年12月の民主党下野以来続いた支持率4~5%の最悪期は脱しているものの、過去に政権就任以前の民主党も経験のないほど長期間の低支持率が続いている状況です。

政党支持率1998~ 自民vs民進(民主)
内閣支持率-不支持率(好感度指数) 歴代内閣の推移(1998~)

丁寧な民主主義が消えた

2015年の集団的自衛権を容認する法律の成立に際し、相当程度に世論が割れ国会でも議論が沸騰しましたが、その際、自民党の支持率は若干下振れしたものの34%を割ることはなくすぐに持ち直し、いっぽう民主党の支持率は低迷したまま。瞬間的に持ち直すこともありませんでした。集団的自衛権の議論は現在潮が引いている様相で、低迷する野党の現況を反映しているのかもしれません。
2014年には閣議決定による集団的自衛権を解禁する憲法解釈の変更もありました。70年続いた日本国憲法の柱とされる平和主義「専守防衛」の中身が変わる話ですから、国会においてかなり丁寧なプロセスが進められるかと思いきや、内閣だけですんなり決定されました。集団的自衛権を実施可能にする安全保障関連法制の特別委員会議事録も採決段階での聴取不能部分があり、違憲立法であるとの有識者からの指摘も多く聞こえた中での強行採決は、果たして丁寧な民主主義と後世に伝えられるかどうか、疑問です。

政治家がどう思うかより、国民がどう思うかが大事

2014年9月には英国のスコットランド独立を問う住民投票、2016年6月には英国がEUに残留するか離脱かの国民投票がありましたが、このとき、政治家がどう思うかではなく、国民がどう思うかに重きを置く民主主義のあり方を見せつけられた思いがしました。
住民と国民の意思に沿って、スコットランド独立派のサモンド首相しかり、残留派のキャメロン首相しかり、もっと時が進んで昨年11月の米国ヒラリークリントンしかり、有権者の判断に従って即刻退陣表明・敗北宣言する姿には、日本の民主主義がいかに過酷なほどに国民意思に基づかず、政治家の思惑に振り回されているかを感じます。

民主主義の短所を克服するには

現在の日本政治は民主主義の短所が突出している状況に思えます。
資金力と知名度に大きく依頼する政治闘争は“悪しき選挙至上主義”と言うべきで、政策実現のため選挙に勝てるよう様々工夫することは良いことと思いますが、人間の情や欲を逆手に取るような選挙戦術は、何が正しいことか分からなくなり結局は人心を荒廃させ、社会から協調性や人間性を失わせることになるのではと思います。
選挙は、善悪正誤を出来るだけ科学的により分け、有権者の知性と理性に適った政治家を生むために、理知的な格闘技としなければなりません。

政治家は選挙に勝ち残るため自分自身を全力で守ろうとします。そこに国民を守るという発想や行動が伴っている状況を現実に見ることは稀です。政治家は常に対戦相手を不正不義の徒と糾弾し、私が生き残れば国民を不正不義から守ることが出来る、と支持を訴えることが大半です。しかし何が不正不義で、何が悪や誤りであるかは見方によって違うこともあり、普遍的な判断が難しいものです。社会が成熟し多様な価値観が共存するほど難しい。したがって本来選挙にあたっては、政党や政治家が相手を糾弾し倒そうとすることよりも、自分自身が何をするのか、何を善や正と判断するのかを明確にぶれずに提示できることが有権者にとっては分かりやすく、有意義な選挙選択につながりやすく、そのような政治を有権者は常に望んでいると思います。

善や正を発信できない“政治家はどうあるべきか”の哲学を失った政治が跋扈し、もうすでにその弊害は多岐にわたっているのだと思いますが、政治家が率先して保身に執心し、公職においても自己保存の哲学が最も大事との認識が蔓延してしまっては、現在の日本の閉塞感に終わりが来ることはないでしょう。民主主義は、手垢がつけば輝きを失うダイヤモンドと同じように、いつも浄化しておかなければ価値も良さも失われていくものです。民主主義の輝きを失わないよう、その良識を常に洗い出しておくことが、民主主義の短所を克服するために欠かせないのだと思います。

国際情勢の変容に備えるためにも、野党共闘に政権構想は必要

英国がEU離脱を進め、米国の自国第一主義が本格化した今、ヨーロッパ各国の反移民派の勢力が台頭し、中国が国際協調のリーダーを担い始めれば、世界の風景は一変し、我が国の立ち位置も世界の変容に備えなければならない状況となります。財政危機に加え国際社会の不透明化が日本政治を覆う中、政争に明け暮れる政治を放置すれば、国民のリスクは膨大なものになります。
残念ながら、いま野党政党間に、国際社会への対応について共同して対処する設定がありません。安全保障と統治についての合意が急がれます。政権構想なき野党共闘は、有権者にとっては一体何のために選挙するのか分からなくなり、民主主義の良識を破壊しかねません。脱原発や廃止政策(安全保障関連法の廃止、閣議決定の白紙化など)など一部の政策の合意のみであっても、厳密には政権樹立されなければ実現出来ないのですから、合意した政策の実現のため政権構想を共有し連立政権を国民に約束するか、合流して一つの政党になるかして、連帯して責任を負う体制を国民に示すべきです。政策が実現できなかったときに、国民が失政責任を追及できる状況を作るためです。
それでなければ野党共闘はただ保身のための選挙互助であって、国民のための政治とは言えなくなります。

あらたな政治的展開はどこから

しかしながら、一党支配のまま政治を放置することはまったく健全と言えず、打開すべき状況であることは間違いありません。あらたな政治的展開を多くの国民がしびれを切らしながら待ち望んでいることと思います。
あらたな政治的展開のためには、長期に及んでいる野党の低迷状況を打破するしかありません。その打破する方法の答えは、熟れた柿が枝からボタッと落ちるように、自然に突然現われてくるかもしれませんが、国民自身が、政治家に代わって判断しなければならないという心構えが本格的に日本人に求められ始めていることは、そろそろ間違いなさそうだと思うのです。

荻原隆宏

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