現在の日本の五つの異次元な国情
その③ 異次元の個人消費と人口構造

2016.12.30

少子高齢化によって日本の人口構造も異次元に突入しています。人口は減少し高齢者は増え続け、生産主体である現役世代は減り続けます。現在のところ持ち直しの兆しは見られません。人口が減れば日本はちょうどよくなるとの見方もあるようですがそれは面積の話。このまま、経済活動を行う現役世代が減り続け、社会保障給付対象者が増え続けていけば、破たんは明らかです。社会保障と経済を並立して維持するには、持続可能な生産と消費が必要です。2017年にはバブル崩壊後就職氷河期1期生も47歳を迎えます。壮年世代の引きこもり対策が必要とも言われ始めました。社会保障が崩壊しますます切り捨て社会が進行する恐れもあります。

しかしながら目下我が国の経済は個人消費の低迷にあえいでいます。株や土地などの資産を持たない若年層をはじめ大多数の国民は旺盛に消費する余裕がないからです。消費が伸びれば企業収益が改善し税収増も期待できます。少子高齢社会における社会保障維持には健全かつ屈強な財政が必要ですが、今の日本にはそれを生み出す力がありません。

どうすれば個人消費は伸びるのでしょうか。消費を伸ばす方法は、賃金のアップだと私は思います。現政権は経済界に賃金を上げるよう要求していますが、この要求活動は本来であれば労働組合の役割ですが、政府が代わりに春闘をしている様相から、官製春闘と呼ばれたりします。この春闘で賃金はたしかに少しずつでも上昇していくわけです。しかし賃金を上げられる企業など一握りです。大手企業や公務員は昇給しても、中小零細企業や非正規雇用者に賃金上昇など夢の話です。

そこで、ちゃんと生計を支える最低賃金制度があるじゃないか、となります。たしかに最低賃金も毎年アップしています。今年10月の改定で600円台の地域はなくなりました。一番低いのは沖縄と宮崎の714円、一番高いのは東京の932円、全国平均は823円。しかしこの最低賃金、はたして生活するに十分かどうか、が問題です。東京で法定労働時間(8時間×22日)働いて月に額面16万0304円。家賃を払う人であれば一人暮らしでも相当切り詰めた生活になります。車は到底維持できません。この最低賃金を上昇させていく努力は当然行われるべきと思われますし、現段階の最低賃金のレベルでは、十分な暮らしを保障出来るものではないということをしっかり再認識しなければならないと思います。

欧米にはliving wage(生活必要賃金)という概念があります。

最低賃金(minimum wage)とはまた違う概念で、本当に生活に必要な賃金を表現します。英国では2016年4月にNational Living Wageが導入され、25歳以上のすべての労働者は時給7.20ポンド(1038円:1ポンド=144.2円/2016年12月23日)が支払われる権利を有するとされました。しかし、従来から当該運動を展開していたLiving Wage Foundationはこれを不十分として英国全土で時給8.45ポンド(1,218円)、ロンドンで時給9.75ポンド(1,405円)を保障すべきとし、グレーターロンドン市もこれを採用し企業に呼びかけており、公営企業はじめ多くの民間企業がこれに応じているとのことです。

米国には連邦政府と州政府の二つの最低賃金があるうえに、各市が独自に設定する生活賃金があります。さまざまな工夫で国民生活を潤沢化する努力が各国で行われている様子ですが、同様の取り組みが我が国においても求められると思いますし、これがひいては日本の経済、財政、社会保障建て直しの引き金になるとも思います。人間はただ生きているだけでは人間らしい生活とは言えません。それが人間の尊厳というもので、外食も旅行も車もなく趣味も楽しむことなく飲み会も誕生日プレゼントも出来ずで、非正規雇用や最低賃金で働いている者は食べて住めればそれで良いのだというような考え方が世の中にもしもあるならば、それこそ血も涙もない非人間的な社会と言うべきでしょう。

個人消費を伸ばすには、賃金を上げるしかありません。それも、最低賃金周辺で働いている若年層や低所得層の給料を上げていくべきです。人間らしい尊厳を維持するに十分な経済活動が出来る賃金を、本来ならすべての働く国民が享受するべきです。とくに非正規雇用の人々です。社会がまじめに働く人々をしっかり遇すれば、社会や企業への信用も高まり将来不安も払拭され、消費意欲を刺激し、ひいては日本経済の再建につながるのではないでしょうか。

私も30歳台半ば非正規で日雇いの深夜の肉体労働をしていた時期がありましたが、交通費の支給はなく、厚生年金も住宅手当などの手当もつかないで、差し引いて手元には月収10万円ほどで、ここから年金、健康保険料、家賃などが出て行きました。その扱いに甘んじるのは辛いものです。平成28年の世になってようやく、非正規雇用でも交通費が支払われるべきとの政府指針案が報じられましたが、人間の尊厳の確保にはまだまだほど遠いと言うべきです。一日もはやくまじめに世の中に取り組み働く人々に、敬意を払い優しい日本にしていかなければなりません。

荻原隆宏

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