現在の日本の五つの異次元な国情
その② 異次元の財政危機

2016.12.24

二つ目の異次元は財政危機です。いくつかの危機的状況のなかでも特に異次元級と言うべきでしょう。2016年10月OECD発表で日本の国と地方を合わせた一般政府ベース債務残高対GDP比は、250.4%。過去最高を更新し続けています。2010年欧州ソブリン危機を呼んだギリシャは当時128.6%でした。2016年大統領選で格差拡大への危機感が噴き出した米国では現在108.2%。フランスは97.2%、英国は89%、ドイツは68%。主要先進国はリーマンショックからの回復を図るため2010年6月トロントサミットにおいて財政健全化を進めることにコミットしたのち、それぞれ政策的努力を着実に実行し短期間での財政収支改善を成功させています。いわば日本はトロントでのコミットメントを未履行な状態と言うべきで、まさにどの国も経験のないレベルの異次元な財政状況と言えます。

2016年冒頭で日銀が部分的マイナス金利政策を開始しましたが、万一金利が上昇に転じることがあれば、公債利払いの負担に財政が耐えられるような債務残高とは到底思えません。現政権は2015年6月30日閣議決定の骨太方針において2020年のプライマリーバランス黒字化を目標化していますが、それまでに金利上昇局面があれば、この目標は画に描いた餅に終わりますし、逆に言えば2020年まで金利は上がらないと考えることも出来ます。金利が上昇すれば景気浮揚政策は現在よりもっと切迫した課題となるでしょう。主要先進国並みに財政を健全化させプライマリーバランス黒字化実現のためには税収入をさらに確保する必要がありますが、国の実入りよりも、国民の実入りを増やして景気浮揚を具体化することが優先されるべきことは言うまでもありません。

消費が伸びないのは景気が悪いうえに残業ばかり増えて給料が一向に上がらないことと、さらに将来の社会保障の受給に不安があるからです。高度経済成長期のように普通に一生懸命働いていれば悪い暮らしにはならないという時代は終焉し、どんなに一生懸命働いても幸福感を継続して得られない人々が増え、「中流」という階層そのものがもはや消滅していると言うべき世相だと思います。

バブル崩壊後、債権整理と人員整理のリストラクチャリングの嵐の下に国民は生活防衛に走らざるを得ず、財布のひもを固く縛り、全国の消費支出は平成5年を山の頂に迎え以来現在も下降傾向が続いています。戦後ならぬバブル後は、まだ終わっていないのです。

金融工学という数理論を駆使し数字上の富をコントロールする技術が世界に広がり、インターネットの急速な普及も相まって世界中の国境を越える富の移動を加速したグローバリゼーション。市場原理が広く深く国際社会を覆った結果、どんなに働いても生活が豊かにならない国民が増え、どんなに仕事を受注しても儲からない企業が増え、結果中央でも地方でも財政は緊縮傾向が続き借金は大きく累積し現状に至ります。

高額医療、介護などはやがてさらに厳しい受給要件が付されてくると思われます。これまでの国民なら受けられた治療や介護が将来受けられなくなるかもしれない。年金も今ほど受け取れないかもしれない。厚生年金が受け取れればまだしも、自営業でもなく国民年金しか受け取れない人は食べても暮らしてもいけません。財政危機のもたらす負の影響には、計り知れないものがあります。

平成5年(1994年)春に学校を卒業した人々は、バブル崩壊後の就職氷河期1期生と呼ばれました。大手も含め新卒採用を見送った企業が続出した結果、フリーターや非正規雇用の就業形態が大量発生し、そのままスライドして今に至ります。多くの若者が格差にあえぎ続けたにも関わらず、その原因と責任が明確にされることなく20年が経ちました。いま日本国民の背中には生まれただけで800万円超という膨大な債務がのしかかり、将来世代は確実に今より負担の大きい返済を迫られるという、尋常では考えられない国情にあることを、つくづく忘れてはならないと思います。

荻原隆宏

一覧に戻る